佐賀大学医学部社会医学講座では、『ALDH2遺伝子型判定の実装化を目指した研究』を行っています。
なお、本研究は、佐賀大学医学部倫理委員会において外部委員も交えて厳正に審査され承認され、佐賀大学医学部長の許可を得ています。
以下に、この研究についてご説明します。
【研究課題名】
保健医療におけるアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)遺伝子型判定の実装化を目指して
【研究対象となる方】
同意を得られた佐賀県内の事業所に勤務される方
【研究期間】
2022年 11 月 30 日(倫理委員会承認日)~2026年 3月 31日
【研究目的・方法】
研究の背景
ALDH2は、飲酒後のアセトアルデヒドを分解する酵素で、この酵素の設計図となるALDH2遺伝子は3つのタイプに分かれます。日本人は、50%が野生型、45%が変異型ヘテロ、5%が変異型ホモであるといわれています。そして、アセトアルデヒドに対するALDH2の酵素活性は、野生型を100%とした場合、変異型ヘテロは10%前後、変異型ホモは0%と大きな差があります。
その2: ALDH2と病気について
変異型は東アジア人特有で、飲酒した時に顔が赤くなる・動悸がするといった「アジアンフラッシュ」現象を引き起こすことで知られていますが、単に「赤くなる」というだけではなく、様々な遺伝的特徴を生むことが分かってきました。
たとえば、私達の研究で免疫能に違いが生じ、ワクチンの効き方や免疫療法の効果に差が生じることがわかりました。また、変異型を持った人に飲酒習慣がある場合、比較的体重が軽く、血圧が低く、肝障害の血液指標があがりにくいことも報告されています。その反面、食道がんの増え方が著しいこともわかってきました。
その3: ALDH2遺伝子型を考慮した医療へ
変異型保有者が飲酒した場合、血圧や肝障害の血液指標があがりにくいことは、一見すると良いことのようですが、私たちは問題視しています。多くの医師がこれらの指標を「飲みすぎ」の目安にしているためです。このように「飲みすぎ」が見過ごされると「飲酒OK」の誤ったメッセージが伝わって、結果的にがん罹患を促進しかねないからです。
出典ホームページ:https://musubime。saga-u。ac。jp/medicine/matsumoto_akiko/
『個人属性に応じた保健医療を目指しALDH2多型rs671を研究しています。』
研究の目的
我々はALDH2多型ごとの疾病リスクに応じた個別化予防医療の普及のため、健康診断や人間ドック、医療施設におけるALDH2判定の実装化を目指しています。そのためには、ALDH2多型判定の有用性を示さなければなりません。
すなわち、ALDH2多型の告知が行動変容を促しうることを示すエビデンス(医学的証拠)、さらに、その行動変容に関連して生じる生活の質や身体指標、バイオマーカー等の改善を示すエビデンスを積み重ねることが必要となります。
そこで、本研究は、労働者を対象に以下のことを目的として実施しています。
1. みなさんに、ALDH2の遺伝型について知っていただくこと。
2. みなさんのデータをもとに、ALDH2遺伝型の違いによる、さまざまな健康影響(※)を調査すること。
3. みなさんご自身のALDH2型を知ってもらうことによって、健康意識や検査所見に生じる変化を調べること。
※さまざまな健康影響とは、血液や尿に現れる影響、睡眠の質への影響、行動変容の意識などを想定しています。
研究の方法
□ 佐賀県内の事業所で行います。参加者は全体で650名程度の予定です。
□ 参加してくださる方をコンピュータで3つの群に分けます。
(科学的信頼性を確保するため割付であり、群をお選びいただくことができません)
□ 3つの群それぞれで、内容の違う調査を行います。
□ 最後に、ALDH2の型による違いや飲酒習慣や飲酒量の違い、行動変容の意識による違いを検討します。
1群に振り分けられた場合:
s 最初は、飲酒状況などの質問調査のみ、お尋ねします。
s 半年~1年後にALDH2型を検査し、ALDH2型と型ごとの好ましい生活習慣などについてお知らせします。
2群に振り分けられた場合:
s 最初にALDH2型の検査と飲酒状況などの質問調査を行います。
s 約1か月後に、ALDH2型と型ごとの好ましい生活習慣などについてお知らせします。
3群に振り分けられた場合:
s 2群の内容に加えて、飲酒量の記録と解毒状況を把握するための尿検査、
睡眠への影響を把握するために睡眠モニターを装着していただきます。
s その後、ALDH2型や尿・睡眠の結果をお知らせいたします。ALDH2型ごとの好ましい生活習慣などについてもお知らせします。
s 1回の調査につき、飲酒量の記録を1週間、尿検査を2回、睡眠モニター装着を1週間お願いいたします。
s それらの調査を最初と、半年~1年後の計2回お願いするものです。
全員:
・調査年の前後を含めた3年分について、事業所が保有する健康診断データを拝見させていただき、3つの群を比較させていただきます。
【研究に用いる情報の種類】
①遺伝子型判定によって取得する情報
ADH型とALDH2型(全員)、時計遺伝子rs1801260(3群のみ)
②遺伝子型の認知、飲酒、ストレスの対処方法について(全員)
ADH型とALDH2型の予想、飲酒頻度、飲酒量、飲酒習慣改善の意思、飲みすぎを意識するとき、ストレス対処の方法
③飲酒量の記録により取得する情報(3群)
1日当たりの飲酒量、飲酒日(休肝日)
④採尿により取得する情報(3群)
カテコルアミン、サルソリノール(ドパミンのアセトアルデヒド付加体)など尿中バイオマーカーの値。
⑤睡眠モニターにより取得する情報(3群)
睡眠時間、中途覚醒時間、早朝覚醒時間、睡眠効率、入眠潜時、SpO2
⑥検体に影響を及ぼす可能性のあることがらに関する情報(3群)
採尿・食事・飲酒時間、バイオマーカーへの影響が懸念される食品摂取の有無、ピッツバーグ睡眠指標得点
⑦健康教育の参加の有無
⑧事業所が保有する健康診断結果について(全員)
身長体重、血圧、胸部X線、肝機能(AST、ALT、γGTP)、代謝系(血糖値、脂質、腎機能、尿酸)、血液一般、既往歴、治療中の疾患、家族歴、酸化ストレス関連の生活習慣(睡眠、運動、食事)、喫煙・飲酒・運動の状況など。
本研究は、各事業所、ならびに参加される対象者の同意を得て実施します。同意書の記入後、IDを付与します。その後提出していただく、頬拭い液検体、尿、飲酒記録、睡眠記録には、IDのみを付与し、個人情報に該当する対象者の氏名、生年月日その他の記述により特定の個人を識別することができる項目を含めずに解析を行います。結果は、ご本人へお返しするとともに、所属する事業所の産業医ならびに保健管理部署への提供に同意を頂いた場合は、それらの部署と共有させていただきます。
研究結果は、個人が同定されない形で統計処理を行い、佐賀大学医学部 社会医学講座
環境医学分野のホームページで公開するとともに、学会誌などで発表することがありますが、公開されるのは数値のみです。
【情報の保存】
保存方法は、次の通りです。紙の資料は佐賀大学医学部 社会医学講座 環境医学分野の鍵のかかる保管庫において保存し、電子データは、同講座のパソコンへパスワードを設定して保存します。保存期間は、論文発表後10年間とします。また、これらの情報を廃棄する際、紙の資料は、シュレッダーまたは焼却処分とし、電子データはデータが復元できないよう完全に削除します。
【外部への情報提供】
本研究で得られたデータは、この研究の解析で用いるのみです。他の機関に提供することはありません。
【研究資金】
本研究は、文科省科学研究費補助金、受託研究費、委任経理金、講座費を用いて実施いたします。したがいまして、本研究の対象となる方の費用負担はありません。
【利益相反】
この研究は、特定の企業からの資金は一切用いません。「利益相反」とは、研究成果に影響するような利害関係を指し、金銭および個人の関係を含みますが、本研究ではこの「利益相反(資金提供者の意向が研究に影響すること)は発生しません。
【研究組織】
〈佐賀大学における研究組織〉
研究責任者 佐賀大学医学部 社会医学講座 環境医学分野 准教授 松本明子
研究分担者 同 教授 市場 正良
研究分担者 同 博士研究員 土器屋美貴子
〈既存試料・情報の提供のみを行う機関〉
協力事業所
【問い合わせ先】
本研究に関するご質問等がありましたら下記の連絡先までお問い合わせ下さい。
住所:〒849-8501 佐賀市鍋島5-1-1
電話: 0952-34-2289
研究責任者 :佐賀大学医学部 社会医学講座 環境医学分野・准教授・松本明子
なお、本研究へ情報を提供するかしないかは、本研究対象者ご自身の自由です。
情報が本研究に用いられることについて、対象者ご本人にご了承いただけない場合には研究対象としません。情報の活用を希望しない場合、下記の連絡先までお申出ください。
この場合も対象者ご本人に不利益が生じることはありません。
〈照会先および研究への利用を拒否する場合の連絡先〉
佐賀大学医学部 社会医学講座 環境医学分野 土器屋美貴子 (電話 0952-34-2289)
お問い合わせ |
〒849-8501 佐賀県佐賀市鍋島5丁目1番1号 社会医学講座環境医学分野 電話:0952-34-2289 FAX:0952-34-2065 |
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