2型遺伝子を持っている人は飲酒によって発がんリスクがより高まります。
ところがこのタイプの人は、臨床所見からは飲みすぎの見当がつけにくいのです。
医師は,血液検査の結果で AST(GOT),ALT(GPT),γGTPなどの値が高くなっているとき,血圧が上がっているとき,尿酸値が上昇しているときなどに,飲みすぎを疑います。医師から「飲みすぎではありませんか?」言われると、本人や周囲が過量飲酒について考える機会となります。このことは2本とも1型遺伝子を持っている「お酒を飲んで顔が赤くならない人」には当てはまりますが,2型遺伝子を持っている人は当てはまらないことが分かってきました。飲酒によるがんリスクが高いのに,飲酒習慣を見直す機会が失われやすいのです。飲みすぎを自覚している人は飲酒量を過少申告しがちなので、特に重要な問題点です。
健康日本 21 には,一日の飲酒量を男性では純アルコール 20 g (ビール500 mL程度)以下,女性では 10 g 以下とするよう示されています。1型遺伝子を2本持つ人ではこれらを目標とし,2型遺伝子を持っている人の場合は,飲酒頻度や絶対量をさらに抑制する必要があると考えられます。より濃度の低いアルコール飲料へ置き換えたり,非飲酒日をより多く設けるなどするのが有効なのではないでしょうか。目標を設定する場合には,疫学調査の結果が参考となります。例えばYokoyama ら(2002)の報告では,純アルコール摂取量が一日平均 10 g 以下の飲酒習慣を持つ 2型遺伝子保有者における食道がんリスク(95% 信頼区間)は,同様の飲酒習慣を持つ ALDH2*1/*1 保有者の 5.8 倍(1.6–21.4倍)でした。また,Koyanagi ら(2016)が観察した食道がん 610 例では,385 例(63%)が週当たり 5 日以上の飲酒習慣を持つ 2型 保有者でした。
2本とも2型遺伝子を持っていて飲酒習慣のある人は少ないですが、さらにリスクが高いことが予想されるため,できる限り飲酒しないのが適当でしょう。
2型遺伝子を持つ人では喫煙によってがんや血管攣縮性狭心症のリスクが上昇することが報告されています。有力な原因物質として,タバコ煙に含まれる種々のアルデヒド類 が挙げられます。しかし,このリスク上昇は医療従事者にすらあまり知られていません。
Park ら(2010)の報告では,「2本とも2型遺伝子を持っている人(いわゆる下戸タイプ)で喫煙習慣のない人」と比較して,ブリンクマン指数が 300 ~ 600 の 下戸タイプの人では,肺癌のリスク(95% 信頼区間)が 10.2 倍(2.4–43.1倍),ブリンクマン指数が900以上で23.2倍(6.2–86.5倍),となっています。喫煙による肺がんリスクの上昇幅が,下戸タイプ以外の遺伝子型の場合(ブリンクマン指数 900 以上で6.3 倍(4.5–8.7 倍))と比較して大きいということです。
2型遺伝子を持つ人では喫煙習慣がつきやすい一方,禁煙も達成しやすいと報告されています。知識が普及するだけでも,禁煙者が増加し,一定の予防効果を生む可能性があります。若年者や保護者に対する防煙教育のなかで ALDH2 多型と疾病リスクについて知識の普及を図ることは,有効な対策の一つではないでしょうか。
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